Living Things (2012/06/20) Linkin Park ★★★★★ Amazonで詳細を見る |
『Living Things』は、アメリカのロックバンド Linkin Park の5枚目のオリジナルアルバム。
帯には原点回帰と銘打たれていたものの、全くそのようなことはなく、前作『A Thousand Suns』における極端なエレクトロニカ表現をバランスした、完成度の高い秀作。アルバムのコンセプトは、
"We chose the album title 'Living Things' because it's more of a record about people. It's more about personal interactions."とマイクシノダが言っているように、人々とそれらの相互作用についてである。【NME.com: Linkin Park: 'Our new record is far more personal'】
また本作は、マイクシノダが
"more energetic [and] song-based"と語っているように、コンセプトの一要素として楽曲を配した『A Thousand Suns』と異なり、クオリティの高い楽曲を集めて構成されたアルバムになっている。【Wikipedia: Living Things (Linkin Park album)】
Living Things
1. LOST IN THE ECHO (2nd single)
★★★★☆【Music Video】 【歌詞和訳】
マイクシノダのラップにサビはチェスターの歌唱、そしてディストーションのかかったギターというLinkin Parkらしい形態をとった曲だが、バックグラウンドのエレクトロサウンドによりスケールの大きい楽曲に仕上がっている。
歌詞には、裏切られた過去に捕われ続けた人間の、消えることのない怒りや苦しみが表現されているように思えた。
2. IN MY REMAINS
★★★★★【Music Video】 【歌詞和訳】
シリアスなメロディとサビにおける伸びのあるチェスターの声も特徴的だが、曲のスケールを拡大させているエレクトロサウンドの存在感が大きい楽曲。シリアスで哀愁を含んだサウンドながらも、エレクトロサウンドにより神々しさや輝きが感じられる音空間が構成されている。
歌詞は、人の世の儚さについて。
3. BURN IT DOWN (1st single)
★★★★☆【Music Video】 【歌詞和訳】
透明感のあるエレクトロサウンドにチェスターの美しい声が映え、サビにおけるノイジーなギターサウンドは太陽のフレアのようなイメージを想起させる。
纏まり合うことを望む者が、諍いに陥っていく様が描かれているように思える歌詞。
4. LIES GREED MISERY
★★★☆☆【Lyrics Video】 【歌詞和訳】
軽快なエレクトロニックサウンドをバックグラウンドとしたラップ中心の楽曲で、チェスターの連続的なシャウトで終局する。
歌詞は、嘘と欲にまみれた人間が失敗を犯し堕ちていく様を綴る。
5. I'LL BE GONE
★★★★☆【YouTube】 【歌詞和訳】
懐かしさを感じさせる歌唱のメロディに、バックグラウンドでは現代的な方法論による嵐のようなサウンド。
歌詞には、背後に何かもかもを残して立ち去っていく、自死していく者について綴られている。
6. CASTLE OF GLASS (4th single)
★★★★★【Music Video】 【歌詞和訳】
マイクシノダが中心となって歌い上げる渋い一曲。エレクトリックなサウンドは、哀愁と共に疾走感がある。チェスターはコーラスが主だが、メインパートもある。華やかなチェスターの声と、渋いマイクシノダの声の重なりは味わい深い。
暗闇に包まれた荒野を走る汽車。そしてそこから荒野を見つめる壮年の男というようなイメージが思い浮かぶ。
何か大きな体制の、小さな駒として手を汚し、二度と元には戻れないことに悲しみ嘆く人間について綴られた曲。
7. VICTIMIZED
★★★★☆【YouTube】 【歌詞和訳】
複雑な曲の構成。民謡風マイクシノダの歌唱をチェスターのシャウトが突然さえぎる。そして、マイクシノダのラップ、チェスターの激しい叫び。個人的には、ラストから次曲への移行が堪らなくいい。
ポリティカルな意を暗に含んだ歌詞。
8. ROADS UNTRAVELED
★★★★★【YouTube】 【歌詞和訳】
この曲には構成物が6つ。バックグラウンドで美しく寂しげに鳴るチャイム。静と動をコントロールするドラム。リズムを補佐するかのようなピアノ。曲をピークへ導くベース。曲の最高潮を演出する強いディストーションの利いたギター。諦観を呼び起こすマイクシノダの声とチェスターの呟き、そして彼らの声の重なり。個々に完成されたこれらの音が、洗練された美しいサウンドを構成する。
平凡では居られない者達に、何か大事なものを喪失した者達に、安息を与える言葉。そして、皆の痛みを理解し共有して分かち合う為に、我々が存在すると言っているかのよう。
9. SKIN TO BONE
★★★★☆【YouTube】 【歌詞和訳】
エレクトリックなサウンドをバックに古い歌謡曲のような歌唱のメロディ。マイクシノダの渋い声は、歌謡界の重鎮のような貫禄があり、チェスターの伸びのある声と親和性も高い。
諸行無常を語っているようにも、聖書におけるアダムの原罪に対する神の裁きを語っているようにも思える歌詞。
10. UNTIL IT BREAKS
★★★☆☆【YouTube】 【歌詞和訳】
気だるいブレイクビートサウンドをバックにしたラップ中心の楽曲。随所に差し込まれるサンプリングや、様々にエフェクトされたヴォーカルサウンドにより多展開する極めて複雑な楽曲。
潮流を牽引する者が、その周囲の者達について語った歌詞。
11. TINFOIL (Instrumental)
【YouTube】ブレイクビートをバックに情感溢れるメロディをピアノとノイズでなぞった、愁いを帯びたインタールード。
12. POWERLESS (3rd single)
★★★★☆【YouTube】 【歌詞和訳】
『TINFOIL』のバックグラウンドサウンドから連続的に接続し、チェスターにより歌い上げられるエモーショナルな一曲。
身近な者の消失と、その無力感について表現された歌詞。
歌詞のコンセプト
チェスター・ベニントンは、スピンマガジンで、このレコードの歌詞について以下のように語っている。The record's lyrics were personal rather than political, and majored on relationships.訳:
このレコードの歌詞は、政治的というよりは個人的なものを表していて、結びつきに重きを置いているんだ。
Once we start hitting lyrical themes that can whack you from all these different perspectives, we know we're onto something special.訳:
僕らが様々な側面から皆に訴えかける歌詞のテーマを思いつくと、そのことに僕らも心当たりがあることに気づいたんだ。
A lot of the songs revolve around people - a drifter, or a soldier returning home, or a child finding his or her place in the family.訳:
曲のほとんどは、次のような人々について描いているんだ。家に帰って来た放浪者や兵士、または自分の居場所を見つけた子供たちについてね。
感想
Linkin Parkは、完全にオルタナティブ・ロックバンドになり、ロックの新たなメインストリームを作る担い手になりつつある。初期2作『Hybrid Theory』、『Meteora』は、当時のロックにおけるメインストリームの後追いだった。しかし、前作『A Thousand Suns』と本作における彼らの作品は、オルタナティブという言葉に象徴されるような、ロックの概念をより拡張する試みであると思う。正直、『A Thousand Suns』の『When They Come For Me』、『Waiting For The End』、『The Catalyst』は実験的アルバムゆえの奇跡の楽曲だった。本作は、これらのような突き抜けた楽曲があるわけでは決してない。しかし本作は、エレクトロニカ、ダブ、メタル、ヒップホップ、インダストリアル、民謡やクラシックを感じさせるメロディさえ含み、これらがバランスよくブレンドされ、完成度の高いものに仕上がっている。しかも本作では、マイクシノダのメロディ部の歌唱(ラップではなく)が多く、その声の渋さと哀愁にいい意味での驚きがあった。
関連情報
アルバム名 | Living Things |
アーティスト名 | Linkin Park |
発表 | 2012/06/20 |
評価 | ★★★★★ |
メンバー | Chester Bennington, Mike Shinoda, Brad Delson, Dave Farrell, Rob Bourdon, Joe Hahn |
プロデューサー | Rick Rubin, Mike Shinoda |
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